はじめに
剣道家のあなたに、良書のご紹介をします。
剣道の本はニッチすぎて中々書店に並ぶことがありません。
それでもネットで剣道の本を検索すると意外と多くの本があることに驚きます。
しかしニッチな業界ですから、そこそこいい値段するのが現実です。
安くない本をネットで購入して試しに読んでみるほど、現代人の僕たちに余裕はありません。
そこで、僕が読んだ剣道本をご紹介して、こんな本があるんだと少しでも興味をもってもらえればとこのブログを書いています。
今回ご紹介する本は『心を耕す剣道 小林秀雄対談集』です。小林英雄先生は範士八段、神奈川県剣道連盟の会長です。
そんな小林先生が、22人の一流の方々と対談した内容をまとめた本になります。
22人から僕が個人的に心を動かされた3人の名言をご紹介させて下さい。
倉澤 輝彦(くらさわ てるひこ)
1人目は、大正12年生まれ、95歳でお亡くなりになった範士九段の倉澤先生です。
剣道は稽古、稽古なしには成立しない。その積み重ねが人格形成にもかかわってくる。
僕も日頃から思っていることですが、強さと品格は矛盾しないと思っています。
本当に強い人は、礼儀などの所作や稽古の内容の細部に至るまで、品格がにじみ出ています。
それは、心の底から相手に敬意を持っていて、その心が表れたものだからです。
その他にも
腰が抜けていたり、腹の力が抜けていたりしては、剣先は生きてこない
膝が曲がったり、腕に必要以上の力が入ったりすると生きた剣先とはいえない
など、攻めに関する貴重なアドバイスもあり大変参考になりました。
笹森 建美(ささもり たけみ)
2人目は、昭和8年生まれ、小野派一刀流第17代宗家の笹森先生です。
一刀流は、現代剣道にとても影響を与えた流派で、皆さんご存知の坂本龍馬も一刀流です。
形を修行し、形があるところまで上達してきたら竹刀で教えるというやり方が本来の指導法
本来の姿が損なわれるという意味の『形なし』の語源はここからきていると言われています。
形をある程度学んだ後に、自由な稽古に入ることの大切さを改めて考えさせられました。
個人的に、初心者には竹刀からではなく、始めに木刀を持たせて木刀による剣道基本技稽古法から教えたらどうなるか見てみたいなと思っています。
また先生は一刀流の代表的な技である『切落(きりおとし)』についても説明されています。
切落はスピードはさほど必要ありません。正しく打つことが同時に相手の太刀をはずすことになり、敵の太刀をはずすことが同時に敵を切ることになり、一をもって二の動きをするから必ず勝てるのです。
僕もそうですが、切落に憧れる剣士は多いと思います。
しかしそのほとんどが、スピードの早い『受け打ち』になっていると言及されています。
竹刀の構造上の問題も確かにあるかもしれません。それでも『切落』はいつかマスターしてみたい剣道の醍醐味でもありますね。
宮崎 正裕(みやざき まさひろ)
剣道家にとってもはや説明不要。平成の剣聖宮崎先生です。
宮崎先生は全日本選手権大会優勝6回、準優勝2回、世界剣道選手権大会団体優勝4回、個人優勝1回、全国警察県道選手権大会優勝6回、準優勝1回、全日本選抜八段優勝大会優勝2回という文句なしの戦績を残している先生です。
全力で最初から
こんな偉大な方ですが、稽古で心掛けていたのは、体力を配分するような稽古ではなく、どこまで持つかという気持ちでやっていたそうです。
僕をはじめ、多くの剣道家が学生時代に「後何十分練習時間が残っているから」と無意識にペース配分をして稽古していたのではないでしょうか。
また試合と稽古の違いについてもこのような考え方をしていました。
試合と同じ気持ちで稽古をすることは大事だと思うのですが、試合と同じように稽古をしていては新しい技が身につかない
これも頭で理解していても中々実行できるものではありません。
誰も一本打たれることが嫌なのです。
しかし、そんな小さなプライドは捨ててでも本番で勝つことを強く望んだ宮崎先生は、「稽古ではテーマをもって稽古するなかで打たれるのであればいい」と割り切っています。
そして稽古で恐れていては、本番でも恐れてしまうから、稽古で思い切って一本を出すそうです。
さらに打突部位をとらえたら必ず一本にする気持ちで、打ち切っていたそうです。
自分の中途半端な稽古を反省してしまいました。
ちなみに個人的な話ではありますが、僕が昔知り合いの先生にもらった面手拭いがあります。
それは宮崎先生が7段に昇段された際に作られた面手拭いでした。
そこにはシンプルに
初心
と書かれており、今だに大事に使用しています。
おわりに
まだまだ他にもご紹介したい先生方がたくさんいます。
それにしても剣道というだけでも様々なジャンルの方や立場の方がいらっしゃるものです。
その立場や職種によっても色々な考え方があってとても参考になりました。
自分の理想とする剣道観を磨くためにも是非本書を読んでいただきたいです。
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