ついに試合当日
ついに試合の当日がやってきた。
3週間前に痛めた腰。3週間安静にしていれば治ると思っていたが、当日もやはり痛かった。
でも言い訳をしても始まらない。本番のアドレナリンが出れば気にならない程度には回復した気がする。
痛み止めの薬も飲んだ。やれることは半年間やった。あとは全力を出すだけだ。
試合会場には、車で1時間ほどかけて到着した。特にトラブルもなく会場に到着。
開場時間になると入り口前で竹刀の計量が始まった。
安心感を得るために自宅で事前に竹刀の計量は済ましている。
自信を持って出した3本の竹刀は2本しか返ってこなかった。
1本は、規定の510グラムに達していないと運営側に回収されてしまった。
回収された竹刀は試合終了後に返却してもらったが、ここまで公平性に厳密なところはさすが国体だと改めて感じた。
幸いに試合で使用するつもりの竹刀ではなかったのでメンタルに影響はなし。
おやじの挑戦
開場入りして、落ち着いて着替える。
アップも済ませて開会式を待つ。
開会式も終わりいよいよ国体予選が始まった。
僕が参加する副将の部は他の部門と違い参加者がそれほど多くはない。
しかし、その分有名選手がずらりと揃っている。
トーナメントの組み合わせは朝の受付時に確認した。
現役時代に全日本選手権に出場していた有名選手と2回戦で当たる組み合わせだった。
そんなことは覚悟の上での挑戦だ。
本番で緊張感に押しつぶされずに、力を発揮する方法は、昇段審査で学んできた。
コツは試合直前に高まる緊張から逃げないことだ。
今回も直前の緊張から逃げないように集中力を高めていく。
おやじの敗北
一回戦を何とか勝ち上がり、問題の二回戦。
お相手は僕より年齢は上だ。
現役の頃のイメージはもの凄いキレのある出発力だった。
しかし試合が始まるとそのイメージとは違いスタンスを狭くしてしっかり構えて立っている。
まるで八段審査を意識した剣道だった。
下手な打突は返される気がした。ただしこちらから攻めなければ主導権を握られてしまうに違いない。
やることは変わらない。しっかり攻めて、相手が動揺したところを捨て切って打つ。
相手をびっくりさせるため、速い攻め足を見せた。
相手は全く動じない。やはり強い。
今度は相手が攻めてくる。
竹刀を上から押さえられたまま、面を狙われる。
小手先の面ではなく、剣先がしっかりと振られ腰の入った面だった。
竹刀を押さえられた分、防御が遅れる。竹刀で避けたが、剣先が少し面に当たる。一瞬ヒヤッとした。審判も一人だけ旗を上げかけた。
攻め合い。そこからの打突。どちらも一級品。そして本気はまだ出していない感じだ。
全力で攻めていくしか勝ち目はない。
全力の小手から面。急に竹刀を押さえつつ間合いに入り小手。
色々試すも相手は動じずに何なく防御された。
くそ、攻め手にかけるな。そう思った矢先に攻め入られた。
思わず手元が上がる。僕の悪いクセで、腕を右前に伸ばし、霞の構えのような避け方だ。
これは小手筒はかばえているのだが、拳の部分が剥き出しだ。試合というものは、たとえ打突部位でなくても良い機会や、良い音がなれば旗が上がる。
相手の小手は左拳に当たったもののとても良い音がした。旗が3本上がる。
やはり避ける時は足を使って避ける方がいい。
仕方ない。良い攻めのあとの、良い打突音の小手。文句のつけようがない。
気を取り直して取り返しにいく。
焦る必要はない。大人の試合は5分。まだ時間はある。
その後も攻めては打ち、攻めては打つ。当たった技もあるが、相手が動じないし、僕の打突も打ちが軽い。有効打突には遠い。
その内、攻め入り方が雑になってくる。攻め足のパターンが一定になっていた。
攻めようと間合いを詰めた瞬間に逆に間合いに入られ、その刹那出頭面。
こんなに見事に打たれたことは今まで記憶にない。
完敗だった。
4分に満たずに2本負け。
相手はそんなに動いていない。動いていたのは常にこちら側だった。
分析
29歳でリバ剣して以降、公式戦でこんな高いレベルの相手と試合をしたのは初めてだった。
貴重な経験だ。
学ぶことが多い。
まず攻めからの打突に切れ目がなかった。
攻め込まれて打突までに反撃の余地がなかった。
分析してみると、
①竹刀を制御されたまま打突につながっていた
②左足の継ぎ足が滑らかで正面からは分からなかった
③打突のタメが感じられなかった
④竹刀がしっかりと振られており、当たれば一本という破壊力だった
⑤こちらの攻めに動じることがなかった
他にもあるかもしれないが、お相手の特徴はこんな感じだった。
どれも自分にないものばかりだった。
僕は年齢の割に体は動くほうだった。それを武器にスピードで勝負しようとした。
しかし、本物相手にはただ速い攻めや打突は通用しなかった。
冷静になってみると昇段審査の時も、無駄打ちをせず、落ち着いて攻めて、相手と合気になって捨て切って打っていた。
とても浅い剣道に陥ってしまっていたことに気付かされる。試合をする前に剣道の方向性で負けていた。
しかも僕に勝ったお相手も続く決勝戦では延長の末破れていた。どれだけレベルが高いんだ国体予選。
改善
息子にチャレンジするおやじの背中を見せるために始めた今回の挑戦。
負けたままで終われない。
1年後の2026年の国体予選に再度チャレンジしたい。
今回約半年間の準備期間で年齢を顧みずに稽古した結果、故障してしまった失敗を活かして1年間じっくりと準備したい。
1年後、結果を出すためにも
①無駄な動きをなくして洗練された剣道にする
②当たったら絶対に1本という強い打突
③相手を使う
の3テーマで稽古していこうと思う。
①無駄な動きをなくして洗練された剣道にする
今回の試合を振り返って、無駄な動きが多かった気がする。
しっかり攻めを効かせるためにも、相手の反応を感じ取るためにも、もっと無駄な動きを無くしたい。
そのためには強い心がいる。
打たれても動じないように意識して稽古をしようと思う。
②当たったら絶対に1本という強い打突
スピードを意識して打突が軽かった。
竹刀が振れていなかったし、腰がしっかり入った打突も少なかった。
左足で腰ごと前に出て、しっかり竹刀を振ることを意識して稽古に臨むようにする。
③相手を使う
スピードで負けないように考えていたため、合気になった打突が無かった。
もっと攻めを効かせて、我慢して合気になって出頭の技や返し技を打たなくては勝てないと感じた。
相手の勢いを利用させてもらうくらいの余裕が必要だ。
そうすれば僕の剣道はもっと自由になる。
以上の3つを意識して1年間稽古していこうと思う。
今は冷静になって分析やら改善策やらをつらつら書いてはいるが、正直な感情はただただ『くやしい』の一言だ。
もっと出来ると妄想していた。まったく歯が立たなかった自分が不甲斐ない。
この歳になってこんなに悔しい思いができたのも挑戦したからだ。
この悔しさを忘れないでおこう。
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