はじめに
剣道称号「教士」を受審するにあたり、論文の課題が「剣道指導者としてのあり方」だった。
資料で勉強したり、自分自身の指導者としてののあり方を見つめ直すことが出来て中々良い機会になった。
そもそも剣道の目的は社会に貢献する人になることだ。
大きな試合で勝つことが最終目標であるならここまで幅広い競技人口がいる種目とはなっていない。
今日まで剣道が本質を見失わずに存続していることの多くは、代々剣道連盟の先生方のご英断によるところが大きいと思う。
この記事は自分の考えも交えつつも、今回勉強したことの一部を皆さんとシェアできればと思い書いている。
理想の指導者像
剣道を続けてきたあなたは、これまで色々な指導者に出会ってきたことだろう。
中には今なら問題になっているような理不尽な目にあってきた方もいるかもしれない。
反対に技術も人間性も尊敬できる素晴らしい指導者に出会った方もいると思う。
そういう理想の指導者になれるよう僕たちは日々研鑽を積んでいる。
資料を読んでいて『指導を受ける者とともに修練する』という項目があった。
有名な高校剣道部を見ていると、指導者自身の実力も半端ないケースが多い。
指導者も子供達と地稽古などをして身をもって指導に当たっている。
言葉で伝えられることには限界がある。指導者の技術を体験させたり、指導者の剣道に対する取り組み姿勢などを体感させることの方が遥かに大きな影響を教え子達に与える気がする。
例えば、自分が高校生だとして日頃指導を受けている先生自身が日々稽古を続けていて、ある日八段審査に合格したとしたら、その部の士気は上がるのではないだろうか。「よし!おれも先生に負けずに頑張ろう」とそういう気持ちにさせてくれるのではないだろうか。
その他ハッとさせられた項目は『指導を受ける者の技能の優劣などにとらわれず、常に一人一人に愛情をもって公平かつ誠心誠意、指導にあたる』というところだ。
剣道に限らず全ての指導者にとって大切なことであるが、わざわざ書かれているくらい実行することが難しいことだ。
レギュラーでいつも勝つ子と、レギュラーではなく中々成長しない子がいたとしたら僕たちは自信をもって公平に指導していると言えるだろうか。
僕はやる気がある子が、余りやる気がない子のせいで稽古が不十分になり成長を妨げてしまうことがないように気をつけている。やる気がある子は更に成長してもらいたいと思っているし、日本の風潮だとみんな一緒にという雰囲気が教育の現場では根強く残っている。
しかし、公平にそして誠心誠意指導にあたることは、それ以前の問題だ。
指導者が口では「子供達の成長を」等と綺麗事を言っていても、実際の指導が試合で勝つ子ばかりを優遇して指導していたら、結局は勝利至上主義である事がバレてしまうだけだ。
実際の現場は、いくら指導しても習得が遅い子もいれば、教えたらすぐに出来る子もいる。
愛想がいい子もいれば、愛想の悪い子もいる。
自分も全員に同じ熱量で指導できていないことに、よく反省することがある。
理想は公平に指導することだ。その姿勢はチーム全体の心理的安全性に繋がっている気がする。
子供達が将来剣道を通じてより成長するために、今何をするべきか。常に自分の指導を反省しなくてはと思う。
教え子達に何を伝え、何を育成するのか
教育に完璧なテンプレートなど存在しない。
剣道指導も同じで、上手くいく方法は1つではない。
一人で完璧な指導をする必要はないし、出来っこない。
道場経営が上手くいっている所は、指導を手伝ってくれる大人、サポートをしてくれる保護者、下の者の面倒を見てくれる高学年の先輩方など多くの協力者がいる。そして同じ方向を目指しているように見える。
大切なことは、リーダーが本当に大切にしている価値観を、みんなも共感して共有しているということだ。
例えば代表者が、実際は「大きな大会で優勝してこの道場が有名になって、自分がもっと剣道業界で認められたい。」と思って行動している場合、皆んながついてくるだろうか。
「とにかくウチの子が強くなって欲しい。」と思っている保護者は付いてくるかもしれないが、長年やっていくといつかチームとしてはボロが出るのではないだろうか。
子供達に何を伝えなければいけないのか。
それは、剣道指導の心構えにある「竹刀の本意」「礼法」「生涯剣道」などの正しい剣道だ。
そのまま硬い表現で伝えるのは難しい。
しかし、指導者が本当にこれらが大切だと感じていれば、日頃の指導でにじみ出てくるはずだ。大切なことは正しいことを諦めずに工夫しながら繰り返すこと。
そして子供達の正義感、強くなりたいと思う気持ち、優しい気持ちを育てることが重要だ。
正・強・仁。子供達がこの3つの価値観を持ってくれたら指導者としては素晴らしいと言えるのではないだろうか。
指導で大切にしていること
僕自身が指導で大切にしていることは、雰囲気だ。
日本はハイコンテクストな社会だ。
非言語的な情報に頼って意思の疎通を図る集団だ。
決して明文化されないが、子供から大人まで場の空気を読むことがこのこの国の社会で生きていくには、大切なスキルの1つである。
この文化を悪いとか、良いとかいうつもりはない。
道場で昔から大切にしている価値観は、意図することなく子供達に強く影響される。
稽古中は真剣に取り組む。
挨拶をちゃんとする。
自分のことは、出来るだけ自分でやる。
試合によく勝つ者が、試合で勝てない人を下に見るような雰囲気を作らないようにする。
稽古に真剣に取り組まない雰囲気を作らない。
横柄な態度を取って、周りの人に敬意を払わないような雰囲気を作らない。
大切にしていることは、子供から保護者まで徹底するような雰囲気作りを大切にしている。
おわりに
剣道指導者が注意しなければいけないことは、常に子供達の人生にとって良い指導をしているかチェック機能を働かせて修正することだと考えている。
剣道は上下関係がしっかりしている。教えられている側からしたら、指導者に不満があっても中々本人に指摘できるものではない。
自身の研鑽を諦めた指導者だったり、功名心だけ高い指導者だったり、自分の指導に酔ってしまい何か勘違いしている指導者などにならないように日々客観的な視点で自分を見つめる必要がある。
それほど指導は難しい。
指導することで、承認欲求が満たされ指導にハマるも、子供達やその保護者のニーズに応えておらず迷惑がられる指導者の話をよく耳にする。
それくらい指導は魅力的だし子供達の将来を左右する重たいものだ。
今回、称号の論文を作成するにあたって、本当に指導者として指導技術も人格も磨かき続けないといけないなと身が引き締まる思いになった。
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